前回、インボイス制度の概略について説明しました。
免税事業者は、課税事業者になるかどうか、悩みどころですよね。
そこで今回は、このインボイス制度にどう対応していくか、判断の材料を検討してみたいと思います。
インボイス制度対応の選択肢
インボイス制度開始に対する対応としては以下の3つが考えられます。
① 免税事業者のまま事業を続ける
② 課税事業者になる(簡易課税)
③ 課税事業者になる(本則課税)
④ 課税事業者になる(激変緩和措置適用)
では、何を基準に判断していったらよいのでしょうか。
B to CかB to Bか(課税事業者になるかの選択)
まずは、取引先が個人顧客か事業者かで判断が分かれてきます。
例えば、街の駄菓子屋さん。主なお客さんは子どもたちですよね。子どもたちは基本的に何かを仕入れて商売なんてやっていませんので、消費税を受け取って税務署に納めることはありません。
このようなビジネスモデルの場合は免税事業者のままで問題はないでしょう。
一方で、法人利用の多い高級な菓子店などは注意が必要です。取引先への手土産として利用されている場合、接待交際費として経費計上されることがほとんどでしょうから、インボイスがない店とある店では利用頻度が変わってくるかもしれません。
このように、顧客が事業者である割合が一定数ある場合には、課税事業者になることを検討すべきでしょう。
簡易課税とは
次に、課税事業者を選択することとした場合、納税する消費税の計算方法には「本則課税」というものと「簡易課税」というものがあり、どちらを選択するかという問題もあります。
「本則課税」とは、前回ご説明した消費税の計算のとおり、課税売上の消費税分から経費の消費税を引いた金額を納税するという方法になります。
ただ、この方法は、事業期間の全ての取引に関する消費税の記帳をし、管理する必要があり、手間がかかります。
そこで、課税売上5000万円以下の事業者である場合、売上に対して一定の率をかけて仕入れとみなして(消費税もその分払ったことにして)いいよ、というやり方ができることになっています。これを「簡易課税」といいます。
この仕入れとしてみなせる率は業種によって決まっています。業種ごとのみなし仕入率は以下のとおりです。
事業区分 | みなし仕入率 |
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)) | 80% |
第3種事業(農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業) | 70% |
第4種事業(第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業) | 60% |
第5種事業(運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)) | 50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
例えば飲食業の場合、550万円(税込、10%)の売上げがあった場合、
50万円(売上げに対する消費税) × 60%(みなし仕入率) = 30万円(仕入税額控除)
50万円 - 30万円 = 20万円(消費税納税額)
となります。
実際にかかった経費が売上げの60%未満であっても、簡易課税を選択していれば売上げに対する60%分の仕入れ税額控除を適用できるわけです。
本則課税、簡易課税どちらが有利かは、その年の経費率や設備投資の額によって変わってきます。
この簡易課税を選択するためには、本来は適用を受ける課税期間(事業年度)の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要がありましたが、免税事業者から課税事業者になる場合、課税期間(事業年度)の末日までに提出すればよいという特例が設けられました。
激変緩和措置(受取消費税の2割納付でOK!)
批判の多いインボイス制度ですが、激変緩和措置が追加されました。免税事業者が課税事業者になった場合、制度開始3年間に限り、受け取った消費税の20%を納付することでもよいとの選択ができるようになりました。
つまり、先程の例の550万円(税込、10%)の売上の場合、
50万円(売上げに対する消費税) × 20% = 10万円(消費税納税額)
となるわけです。
実質、売上げに対して80%の経費があったものと同じとみなされるわけです。先程の簡易課税の場合だと、第2種事業(小売業・農林水産業)と同じ率が全業種で使えるわけです。
もちろん、経費が80%以上かかり、本則課税の方が有利な場合は本則課税を選んでもよいですし、卸売業(第1種事業)の場合は簡易課税の方が有利なので、そちらを選んでもよいです。
簡易課税制度選択届はまだ出しちゃダメ
これまで見てきた通り、課税事業者を選択した場合でも、どの制度を利用するかにより有利・不利があることが分かりました。
激変緩和措置が発表される前までは、ほとんどの業種で簡易課税を選択した方が有利と思われていましたが、必ずしもそうではなくなりました。
しかも、特例で簡易課税の選択が課税期間内に行えばよくなりましたので、当該事業年度の後半まで様子を見て、その段階で一番有利な制度を利用すればよいでしょう。
先に消費税簡易課税制度選択届出書を提出してしまい、激変緩和措置や本則課税の方が有利だった、となることが考えられるからです。